広島地方裁判所 昭和49年(わ)44号 判決 1976年3月31日
主文
被告人日野清及び同三家本真也を各懲役二年六月に処する。
未決勾留日数中、被告人日野清に対しては八〇日、被告人三家本真也に対しては九〇日を、それぞれその刑に算入する。
被告人三家本真也に対しこの裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。
押収してある約束手形一通(昭和五〇年押第七号の四)は、被害者株式会社大気社大阪支店に還付する。
訴訟費用(国選弁護人松本梅太郎に支給した分)は被告人三家本真也の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人両名は、建設業者或は官公庁の出先機関の長等を恐喝して、安全ロープ等の物品を不当に高価な額で購入する旨を約諾させ、その代金名下に財物を喝取し、或は財産上不法の利益を得ようと企て、
一、被告人日野は、中川稔こと永〓博(以下永〓という。)及び佐々木某と共謀のうえ、昭和四七年一一月一五日午前九時ころ、広島市舟入幸町二三番二四号所在の株式会社森本組広島支店において、同支店次長林禄彌(大正一一年三月四日生)に対し、被告人日野が襟につけた銀バツチを誇示して、いわゆる暴力団に所属する者のように装い「わしはこういう組の流れをくむもんだ。一緒に来たのはわしの若いものじや。」「最近、警察の追い込みがきびしいので、若い者に食わせることができん。更生資金にするんで、安全ロープか軍手を買つてくれませんか。」と要求し、同人からこれを断わられるや、「ほかの現場でもつき合つてもらつているんだから、おやじさんのところでもつき合つてくれてもいいでしようが。」、「お宅にも現場がたくさんあるんだろう。おやじさんがつき合えんというのなら、現場を一つ一つまわりましようか。」などと申し向けて約一時間にわたり執拗に右要求を続け、右要求に応じなければ、同支店の業務等に対し危害を加えかねない気勢を暗に示して同人をその旨著しく困惑、畏怖させ、よつて即日、同所において、同人をして、同支店が安全ロープ三巻(市価合計約一万四、四〇〇円相当)を合計一〇万八、〇〇〇円で被告人日野から購入する旨を約諾させ、もつて財産上不法の利益を得た
二、被告人日野清は、昭和四八年九月初旬ころ、広島市仁保沖町所在の東洋工業株式会社宇品東工場内の株式会社大気社東洋工業出張所において、同出張所技術部課長砂川尚一(昭和一四年一一月四日生)に対し、自己の左肩から胸に及ぶ入れ墨を示し、自己がいわゆる暴力団に所属する者であるかのように装い「私は、以前的屋をやつていたが、更生しようと思つているので、更生資金にするため安全ロープを売つて回つているから買つてくれ。よその会社でも買つてもらつている。」「ここ位の会社なら五〇巻はつきあつてもらわなきやあいけん。」と要求し、同人からこれを断わられるや「そんなことを言わずにつき合つてくれ。」「一巻三万七、〇〇〇円だ。」などと申し向けて約一時間にわたり執拗に右要求を続け、右要求に応じなければ、同会社の業務等に対し危害を加えかねない気勢を暗に示して同人をその旨著しく困惑畏怖させ、よつて、即日、同所において、同人をして、同会社が安全ロープ一〇巻(市価合計約七万円相当)を合計三七万円で自己から購入する旨を約諾させ、もつて、財産上不法の利益を得た
三、被告人両名は、永〓及び馬越俊浩と共謀のうえ、昭和四九年三月七日午前一一時ころ、熊本県玉名市繁根木八八番地所在の熊本県玉名事務所において、同事務所耕地課耕地第一係長高木恭一(昭和三年八月二四日生)に対し、自己らがいわゆる暴力団に所属する者であるかのように装い、馬越が「自分らは、露天商をやつており、若い者が沢山いるが、こういう時世だから、更生させ、正業につかさなければいけんので、その施設をつくろうと思つているが、その施設をつくる資金がないので、役所を回つてロープを買つてもらつている。ここでも、是非、買つてもらいたい。」などと要求し、同人からこれを断わられるや、被告人日野が、「東洋建設観光共栄会会長代行島村豊」等と印刷した名刺を差し出し、かつ、こもごも「どこでもつきあつてもらつているので、ここでもつきおうてくれ。」「若いもんの更生資金にするんだから、つきおうてくれ、ほかの役所でもつきおうてもらつている。ここだけつきあえんことはないでしよう。」「われわれ大の男が来ているのだからつきあえんことはないでしよう。二ダースはつきおうてもらいたい。」などと申し向け、被告人三家本が、安全ロープの切れ端を示しながら「これは見本だが、一二ミリもので長さ一〇〇メートルのものが三万九、〇〇〇円だ、少し高いが更生資金だからその値段でつきあつてもらつている。」「われわれが更生すると言つているのに県の係長という職にあるあなたが協力できんことはないでしよう。」「一ダースくらいつきあつてくれ。」などと申し向けて約一時間にわたつて執拗に右要求を続け、右要求に応じないときは、際限なく右要求を反復し、あるいは右高木の身体等にいかなる危害を加えかねない気勢を暗に示して、同人をその旨著しく困惑、畏怖させ、よつて、即日、同所において、同人をして安全ロープ八巻(市価合計約四万円相当)を合計三一万二、〇〇〇円で自己らから購入する旨を約諾させ、同月二四日ころ、被告人日野が安全ロープ八巻を同事務所に送付し、同年四月二六日、右高木をして同市高須四六六番地の二所在の熊本相互銀行玉名支店から愛媛県今治市旭町四丁目一番地の二所在の愛媛相互銀行旭町支店の被告人日野開設にかかる日光商事島村豊名義の普通預金口座に預金として金三一万二、〇〇〇円を振込入金させてこれを喝取した
四、被告人日野及び同三家本は、岡本市之と共謀のうえ、昭和四九年四月六日午後零時ころ、広島市本川町三丁目一番五号所在の大之木建設株式会社広島支店において、同支店事務部長尼子方悠(昭和六年四月一五日生)に対し、自己らがいわゆる暴力団に所属する者であるかのように装い、被告人日野及び同三家本がこもごも「自分たちは、正業についているが、若い者を連れている。そのまま放つておいたら、ろくなことがないので、若い者を更生させるため安全ロープをみなさんに買つてもらつているんです。お宅でもつきあつてもらいたい。」旨要求し、右尼子からこれを断わられるや、被告人日野が、「よそでもつきあつてもらつているんです。お宅でもつきあつて下さい。」「お宅は、広島では大きな会社だからたくさん現場を持つているでしよう。その現場へ一つ一つお願いに回りましようか。できれば支店の方で一括して購入してくれませんか。」「全部の現場を回らんから、三〇巻くらい一括して買つてもらわんといかん。」「一巻三万九、〇〇〇円だ。」「再三、来るわけではないのだから、一回だけつきあつて下さい。」などと申し向けて約一時間にわたり執拗に右要求を続け、右要求に応じないときは際限なく右要求を反復し、あるいは同支店の業務等に危害を加えかねない気勢を暗に示して右尼子をその旨著しく困惑、畏怖させ、よつて即日、同所において同人をして、同支店が安全ロープ一二巻(市価合計約四万二、〇〇〇円相当)を合計四六万八、〇〇〇円で自己らから購入する旨を約諾させ、被告人日野が、同月中旬ころ、右安全ロープ一二巻を同支店に送付し、同年五月一〇日ころ、右尼子らをして同会社係員らを介し、呉市本通り二丁目三番七号所在の呉相互銀行本店営業部から今治市旭町四丁目一番地二所在の愛媛相互銀行旭町支店の被告人日野開設にかかる日光商事島村豊名義の普通預金口座に預金として金四六万八、〇〇〇円を振込入金させてこれを喝取した
五、被告人日野及び同三家本は、共謀のうえ昭和四九年四月二〇日午後二時ころ、広島市三篠町一丁目七番三二号所在の石田工業株式会社において、同社常務取締役石田勝三(大正七年八月六日生)に対し、自己らがいわゆる暴力団に所属する者であるかのように装い、被告人日野が、「赤心連合会赤心観光会長代行」の肩書付の名刺を差し出し「自分らは村上の系統の的屋だつたが、今度若い者を更生させようと思つている。更生資金にするために安全ロープを買つてもらつている。一つ協力してもらえませんか。」と要求し、右石田からこれを断わられるや、被告人日野が、「うちには若い者が大勢いるので、更生さすのにブロツクをつくる工場をつくる資金にしたい。協力してもらいたい。今、現品は持つていないが、注文書を書いてもらえば、後から送ります。一巻三万九、〇〇〇円で一〇巻ほどつきあつてもらいたい。」「一回だけでいいからつきあつてくれ。」「お宅には現場がたくさんあつて、いろんなもめ事もあるでしよう。そういう時に連絡してくれれば解決してあげますよ。」「こんな格好した者が二人も事務室に居ると仕事の邪魔になろうから、わしは出とくから後は若い者とよう話をしてくれ。」などと申し向け、被告人三家本が、「兄貴(被告人日野)がああ言つているんだからつきおうてくれ。」「一〇巻つきおうてもらわにやあ、兄貴に怒られる。」などと申し向け、約一時間にわたりこもごも執拗に物品購入方の要求を続け、右要求に応じないときは、際限なく右要求を反復し、あるいは同会社の業務等に危害を加えかねない気勢を暗に示して、右石田をその旨著しく困惑畏怖させ、よつて、即日、同所において同人をして同会社が安全ロープ一〇巻(市価合計約三万五、〇〇〇円相当)を合計三九万円で自己らから購入する旨を約諾させ、被告人日野が、同月下旬ころ、安全ロープ一〇巻を同社に送付し、同年五月一〇日及び同年六月一〇日の二回にわたり、右石田らをして、同市横川町三丁目一番一六号所在の広島銀行横川支店から今治市室屋町一丁目一番一三号所在の同銀行今治支店の被告人日野開設にかかる和光商会岡本市之名義の普通預金口座に預金として合計三九万円を振込入金させてこれを喝取した
六、被告人日野及び同三家本は、共謀のうえ、昭和四九年六月一九日午前一〇時ころ、呉市西中央三丁目一番三一号所在の大新土木株式会社中国事業本部において、同会社総務部長土手昭三(昭和三年二月七日生)及び同経理部長住田良三(大正七年九月五日生)に対し、被告人日野が「赤心連合会会長代行」の肩書付の名刺を差し出し、自己らがいわゆる暴力団に所属する者であるかのように装い「おたくは、いろいろと建設関係の仕事もやつておられるが、うちでは安全ロープを扱つているので買つてもらえないでしようか。」と要求し、右土手らからこれを断わられるや、被告人日野が「こういう時代になつたので、わしらも的屋では飯が食えんようになつた、若い者の更生資金にしようと思つて、どこでもつきあつてもろうとるんだ。何とか協力してもらえないか。」「二ダースや三ダースはつきあつてもらいたい。」などと申し向け、被告人三家本が、他社で徴した高額の物品注文書数枚を示し「よそでも、このようにつきあつてもらつている。」「一二ミリの一〇〇メートル巻で単価三万九、〇〇〇円だ。」などと申し向け、こもごも「現場へ行つたら、本部へ行けというので、ここへ来たんだ。ここでまとめてつきおうてくれりやあ、もう現場へ行つて迷惑をかけん。」「そんじやあ一ダース、つきあつてくれ、これ以上は、わしも譲れん。」などと申し向けて約二時間にわたり執拗に物品の購入方の要求を続け、右要求に応じないときは際限なく右要求を反復し、あるいは同会社の業務等に対し危害を加えかねない気勢を暗に示して、右土手らをその旨著しく困惑畏怖させ、よつて、即日同所において、同人らをして、同会社が安全ロープ一二巻(市価合計約三万六、〇〇〇円相当)を合計四六万八、〇〇〇円で自己らから購入する旨を約諾させ、同月二四日ころ、被告人日野が右安全ロープ一二巻を、右住田の指定する広島市宝町五番一五号所在の大新緑地建設株式会社事務所に送付し、同年七月二五日、同人らをして同会社係員を介し、呉市本通り三丁目五番四号所在の広島銀行呉支店から今治市常盤町四丁目三番九号所在の四国銀行今治支店の被告人日野開設にかかる和光商会岡本市之名義の普通預金口座に預金として金四六万七、八〇〇円を振込入金させてこれを喝取した
七、被告人両名は、永〓及び岡本市之と共謀のうえ、昭和四九年六月二一日午前九時ころ、広島市大手町三丁目三番二七号所在の小松建設工業株式会社広島支店において、同支店総務課長矢野省吾(昭和六年七月三日生)に対し、自己らがいわゆる暴力団に所属する者であるかのように装い、被告人三家本が、「実は、私らは、商売に来たのです。安全ロープを買つてほしい。」「一巻三万九、〇〇〇円です。」「二ダースはつきあつてほしい。」などと要求し、右矢野からこれを断わられるや、被告人三家本が、「よその総務課長はこの位のものを買う権限を持つとる。ここで買えんということはない。」「私らは的屋をしていた。山口系だ。今度、更生しようと思つて、更生資金にするため、売つてまわつているのだから、是非つきあつてもらいたい。」「兄貴(被告人日野)が一ダース位と言つているから、最低その位はつきあつてくれ。」「一〇万円位じやあ自分らの足代にもならん。一回つきおうてもらえば、もう来ませんよ。うちの若いもんが時々この辺に来ますから、ほかの連中にはやらせません。どうしてもここで断わるのなら、お宅の現場の方へ行つて、お願いするようになりますよ。」などと申し向け、被告人日野が、「戦後の広島のやくざはすごかつたですねえ。駅前の抗争事件などよく知つています。」などと申し向け、永〓が、「大きな工事をしているんだからお願いしますよ。」などと申し向け、約一時間にわたり、こもごも執拗に物品購入方の要求を続け右要求に応じないときは、際限なく右要求を反復し、あるいは同支店の業務等に危害を加えかねない気勢を暗に示して、右矢野をその旨著しく困惑、畏怖させ、よつて、即日、同所において、同人をして、同支店が安全ロープ一二巻(市価合計約三万六、〇〇〇円相当)を合計四六万八、〇〇〇円で被告人日野らから購入する旨を約諾させ、被告人日野が、同月二五日ころ、安全ロープ一二巻を同支店に送付し、右矢野をして同年八月二六日及び同年九月二五日の二回にわたり、同市基町一一番八号所在の協和銀行広島支店から今治市常盤町四丁目三番九号所在の四国銀行今治支店の被告人日野開設にかかる和光商会岡本市之名義の普通預金口座に預金として合計金四六万八、〇〇〇円を振込入金させてこれを喝取した
八、被告人両名は、永〓と共謀のうえ、昭和四九年七月一五日午前一一時ころ、広島県庄原市本町所在の広島県庄原合同庁舎内広島県庄原土木事務所において、同事務所長木村三郎(大正一五年二月一八日生)に対し、被告人日野が、「赤心連合会会長代行」の肩書付の名刺を差し出し、かつ切断した小指を示して、自己らがいわゆる暴力団に所属する者であるかのように装い、「所長さん、実は、お願いがあつて来たんですがね。若い者の更生資金にするため安全ロープを売つているので買つてもらいに来たんです。」と要求し、同人からこれを断わられるや、被告人日野が、「所長さん、そんな冷たいことを言わずに、協力して下さい。」「わざわざ大の男が三人も足を運んで来たのだから、せめて足代になる位の品物をつきおうてくれにやあ帰れませんよ。」などと申し向け、被告人三家本及び永〓がこもごも「所長さん、いくらかつきあつて下さい。」「よその役所でも協力してもらつている。」「おたくだけ協力できんことはないでしよう。」「おたくでは一〇巻はつきおうてもらわにやいけません。」「一巻三万九、〇〇〇円で注文してもらつている。」などと申し向けて約一時間にわたつてこもごも執拗に右要求を続け、右要求に応じないときは、際限なく右要求を反復し、あるいはその身体等にいかなる危害を加えかねない気勢を暗に示して、右木村をその旨著しく困惑、畏怖させ、よつて、即日、同所において、同人をして、安全ロープ七巻(市価合計約二万一、〇〇〇円相当)を合計二七万三、〇〇〇円で自己らから購入する旨を約諾させ、同月二三日ころ、被告人日野が右安全ロープ七巻を同事務所に送付し、同年一〇月九日ころ、右木村らをして、同市本町一、二九六の三八番地所在の広島銀行庄原支店から愛媛県今治市常盤町四丁目所在の伊豫銀行今治支店の被告人日野開設にかかる朝日商店村上勉名義の普通預金口座に預金として金二七万三、〇〇〇円を振込入金させてこれを喝取した
九、被告人両名は、永〓及び岡本市之と共謀のうえ、昭和四九年七月一七日午前一〇時ころ、広島市光町二丁目六番三一号所在の極東工業株式会社広島支店において、同支店資材課長折羽満哉(昭和一七年九月三日生)に対し、被告人日野が、「赤心連合会会長代行」の肩書付の名刺を差し出し、かつ、切断した小指を示して、いわゆる暴力団に所属する者のように装い「実は養魚場をやろうと思つとるんじやが、その資金に困つとる。ひとつ安全ロープを買つて下さい。」と要求し、同人からこれを断わられるや、「自分は若い者を連れておるんで、これらにも食わさにやいかん。」「大手の会社では大きな建設機械を持ち込まれて困つているでしようが、あんたの方は高がしれたロープではないですか。このような小物を断つてもいいんですか。」「単価は四万円くらいじや、安いもんでしようが。」などと申し向け、被告人三家本が「課長さん、とにかく頭数の四巻だけ買つてくれませんか。そうしてくれりやあ、お宅の現場に行つて迷惑はかけません。お宅の会社も困つたことがあるでしよう。わしらに連絡すりやあ、手助けしてあげますよ。」などと申し向け、約一時間半にわたりこもごも執拗に物品購入の要求を続け、右要求に応じなければ同支店の業務等に危害を加えかねない気勢を暗に示して右折羽をその旨著しく困惑、畏怖させ、よつて即日、同所において、同人をして、同支店が安全ロープ二巻(市価合計約六、〇〇〇円相当)を合計七万八、〇〇〇円で自己らから購入する旨を約諾させ、被告人日野が、同月二四日ころ安全ロープ二巻を同支店に送付し、同年八月一二日右折羽をして、同支店係員らを介し、同市猿猴橋町一番一七号所在の山口銀行広島駅前支店から今治市常盤町四丁目所在の四国銀行今治支店の被告人日野開設にかかる日光商事島村豊名義の普通預金口座に預金として金七万七、八〇〇円を振込入金させてこれを喝取した
一〇、被告人両名は、永〓及び岡本市之と共謀のうえ、昭和四九年七月一七日午前一一時ころ、同市光町二丁目六番三四号所在の前記株式会社大気社広島出張所において、前記砂川尚一に対し、同人が前記第一の二の方法により恐喝被害を受けたため、被告人日野をいわゆる暴力団に所属する者と思い込んでいるのに乗じ、その旨装い、被告人日野が、「また、安全ロープをつきあつてもらおうと思つて来たんです。今回も頼みます。」と要求し、同人からこれを断わられるや、「そんなことを言わずにつきあつて下さいよ。ほかの会社でもつきあつてもらつています。」「これまでにも足を運んでいる。年に一回だけだからつきあつてくれ。」「わしらは、ポルノ写真をたくさん手に入れることができる。何なら、持つて来てあげましようか。」「一〇巻じやあ少ない。二〇巻はつきあつてもらわないといけん。」などと申し向け、被告人三家本が、「ロープは一巻三万九、〇〇〇円だ。」などと申し向け約一時間にわたりこもごも執拗に物品購入の要求を続け、右要求に応じないときは、同会社の業務等に危害を加えかねない気勢を暗に示して、右砂川をその旨著しく困惑、畏怖させ、よつて、即日、同所において、同人をして、同会社が安全ロープ二〇巻(市価合計約六万円相当)を合計七八万円で自己らから購入する旨を約諾させ、被告人日野が、同月二三日ころ、安全ロープ二〇巻を同会社広島出張所に送付し、同年一一月二九日ころ、右砂川らをして、同会社大阪支店係員を介し、愛媛県越智郡朝倉村大字朝倉下甲一、三四三番地の七の被告人日野方に同支店常務取締役支店長岩井市郎振出にかかる金額七八万円の約束手形一通を郵送配達させてこれを喝取した
一一、被告人両名は、永〓ほか一名と共謀のうえ、昭和四九年七月一九日午前一一時ころ、広島県佐伯郡五日市町大字石内字原田所在の鹿島建設株式会社五日市出張所において、同出張所長溝辺英俊(大正一五年一月一二日生)に対し、かつて被告人日野が同人に「共栄会会長代行理事」の肩書付の名刺を差し出し「若い時に神戸で遊んでいたことがある。」「前に麻薬中毒にかかり半狂乱になつて自分で自分の腹を刺したことがある。」「これ(被告人三家本)は自分の片腕だ。」などと申し向けていたため同人が被告人日野らをいわゆる暴力団に所属する者と思い込んでいるのに乗じ、被告人日野が、そのように装い「今日は、安全ロープを一〇〇万円位つきあつてもらいに来た。」などと物品の購入方を要求し、右溝辺からこれを断わられるや、被告人日野が「所長さん、一回だけつきあつてくれたら、もう二度と来んから頼みますよ。」「最低の線でおたくの場合、五〇万円まで落しているのだから、それだけはどうしてもつきあつてもらいたい。」などと申し向け、被告人三家本が前同様装い他社で徴した高額の物品注文書数枚を示し「このようにどこでもつきあつてもらつている。」「オレンジ・シートは単価三万六、〇〇〇円だから一五枚で五四万円になる。それだけつきあつてくれ。」などと申し向けて約一時間半にわたりこもごも執拗に右要求を続け、右要求に応じないときは、際限なく右要求を反復し、あるいは同会社の業務等に対し危害を加えかねない気勢を暗に示して、右溝辺をその旨著しく困惑、畏怖させ、よつて、即日、同所において、同人をして、同会社がオレンジ・シート一五枚(市価合計約六万円相当)を合計五四万円で自己らから購入する旨を約諾させ、同月下旬ころ、被告人日野が、右オレンジ・シート一五枚を右五日市出張所に送付し、同年八月二四日、右溝辺らをして、広島市紙屋町一丁目三番二号所在の住友銀行広島支店から前記四国銀行今治支店の被告人日野開設にかかる日光商事島村豊名義の普通預金口座に預金として金五四万円を振込入金させてこれを喝取した
一二、被告人日野は、昭和四九年八月二七日午後一時ころ、福山市三吉町二八六番地の二所在の広島県福山農林事務所において、同所長片岡章(大正一一年六月二六日生)及び同所次長戸田勇(大正一二年六月一五日生)に対し、「赤心連合会会長代行」の肩書付の名刺を差し出し、自己がいわゆる暴力団に所属する者であるかのように装い「私は露天商の世話をしているが、警察の取締がきびしくなつて商売がせばめられて食うに困るようになつたので、ほうぼうの役所で安全ロープを買つてもらうため、お願いにあがつている。」などと物品の購入方を要求し、同人らからこれを断わられるや、「若い者をそとに待たしとる。本来なら一緒にここへ来て、あいさつをさせるんだが、場所柄を考えて一人でお願いに上つている。一ダースでいいから、つきあつてくれ。」「そんなこと(二巻)じやあ、足代にもならん。若い者の面倒をみなければならんので、二ダースはつきあつてくれ。」などと申し向けて、約一時間にわたり執拗に右要求を続け、右要求に応じないときは、際限なく右要求を反復し、あるいは右片岡らの身体等にいかなる危害を加えかねない気勢を暗に示して、同人らをその旨著しく困惑、畏怖させ、よつて、即日、同所において、同人らをして安全ロープ八巻(市価合計約二万四、〇〇〇円相当)を合計三一万二、〇〇〇円で自己から購入する旨を約諾させ、同年九月一日ころ、自己が右安全ロープ八巻を同事務所に送付し、同年一〇月一八日、右片岡らをして福山市霞町一丁目一番一号所在の広島銀行福山支店から今治市常盤町四丁目一番地の一一所在の兵庫相互銀行今治支店の自己開設にかかる朝日商会岡本市之名義の普通預金口座に預金として金三一万二、〇〇〇円を振込入金させてこれを喝取した
一三、被告人日野及び同三家本は、共謀のうえ、昭和四九年九月二〇日、岐阜市藪田東屋敷一六五番地所在の株式会社間組岐阜建築出張所において、同出張所長野口昭二(昭和二年七月一日生)らに対し、自己らがいわゆる暴力団に所属する者であるかのように装い、被告人日野が、「会員の更生資金にするため、全国を回つて安全ロープを売つています。ほかでもつきあつてもらつているのでお宅でもつきあつてもらいたいと思つてお邪魔しました。」などと物品の購入方を要求し、同人らからこれを断わられるや、こもごも「一巻三万九、〇〇〇円でどこでもつきあつてもらつている。少々高いが、自分達の趣旨に協力してもらう意味で二〇巻くらい是非とも頼みます。」「ここで買つてくれなければ何回でもお邪魔しなければならなくなるので、つきあつて下さいよ。」「ここでまとめて買つてくれれば一切、現場をまわつてお願いするようなことはしません。」などと申し向けて約一時間にわたり執拗に右要求を続け、右要求に応じないときは、際限なく右要求を反復し、あるいは、同出張所の業務等に危害を加えかねない気勢を暗に示して、右野口らをその旨著しく困惑、畏怖させ、よつて、即日、同所において、同人らをして、同出張所が安全ロープ六巻(市価合計約一万五、六〇〇円相当)を合計二三万四、〇〇〇円で自己らから購入する旨を約諾させ、同月下旬ころ、被告人日野が右安全ロープ六巻を同出張所に送付し、同年一〇月二三日、右野口らをして岐阜市神田町六丁目一二番地所在の協和銀行岐阜支店から今治市別宮町一丁目三番三号所在の第一勧業銀行今治支店の被告人日野開設にかかるあかつき商会村上勉名義の普通預金口座に預金として金二三万四、〇〇〇円を振込入金させてこれを喝取した
一四、被告人日野及び同三家本は、共謀のうえ、昭和四九年九月二四日午後三時三〇分ころ、名古屋市西区菊井通六丁目五番地所在の松井建設株式会社名古屋支店において、同支店資材課係長原勝敏(昭和一七年五月七日生)及び同支店建築課工事長夏目龍介(昭和三年一月三日生)に対し、自己らがいわゆる暴力団に所属する者であるかのように装い、被告人日野が「稲葉連合会副会長」の肩書付名刺を差し出し、被告人三家本が「若い者を食べさせてゆかねばならん。更生資金にするため安全ロープを売つているので協力してくれ。」などと要求し、同人らからこれを断わられるや、こもごも「そう言わずに協力してくれ。ここでは一二巻協力してくれ。」「ここでまとめて買つてくれれば、現場までは回らんから。」「一度協力してもらえば二度と来ないから協力してくれ。」などと申し向け、被告人三家本が、単価三万九、〇〇〇円の注文書数枚を示し、「早く注文書を書いてくれ。」などと申し向けて、約一時間半にわたり執拗に右要求を続け、右要求に応じないときは、際限なく右要求を反復し、あるいは、同会社の業務等に危害を加えかねない気勢を暗に示して、右原らをその旨著しく困惑、畏怖させ、よつて、即日、同所において、同人らをして、同支店が安全ロープ六巻(市価合計約一万五、六〇〇円相当)を合計二三万四、〇〇〇円で自己らから購入する旨を約諾させ、同月三〇日ころ、被告人日野が右安全ロープ六巻を小牧市久保一色一、四九一番地所在の同支店小牧整備工場に送付し、同年一一月一日、右原をして名古屋市中村区広井町三番九八号所在の第一勧業銀行名古屋ビル支店から前記あかつき商会村上勉名義の普通預金口座に預金として金二三万四、〇〇〇円を振込入金させてこれを喝取した
一五、被告人日野は、永〓及び日野繁と共謀のうえ、昭和四九年一〇月八日午前一〇時ころ、広島県東広島市西条町栄町九番二七号広島県東広島合同庁舎内東広島農林事務所において、同事務所耕地課長円光寺秀頼(大正一一年三月九日生)に対し、被告人日野が、「赤心連合会会長代行取締」の肩書付の名刺を差し出し、自己らがいわゆる暴力団に所属する者であるかのように装い、「われわれは、以前関西の方でお見掛けのようなことをしていたが、更生するため若い者と一緒に鹿児島でパイナツプルの農園をはじめたが、失敗して生活が苦しくなつたので、このようにあちこちで安全ロープのセールスをしてまわつている。われわれの更生資金にするので協力してもらいたい。」と要求し、右円光寺からこれを断わられるや、被告人日野が、「課長さん、そんな冷たいことを言わず協力して下さいや。」「よそでも買つてくれているんだからここでも、つきあえんことはないでしよう。」「課長さん、あんたが何もしてくれんというのならええことにならんぞ。」「課長さん、何とかして下さい。話が並行線のままじあ帰られん。何とか格好つけてくれ。」「課長さん、三〇巻くらい協力して下さいや。」などと申し向け、永〓が「課長さん、今回だけだから協力して下さいや。何回も来て仕事の邪魔をするようになるが、それでもええですか。」「大の男が三人も頭を下げて頼みに来とるんじや、子供の使いじやあるまいし、何とかいい返事をしんさいや。」「短い話を長くしていつまでも仕事の邪魔をしても悪いから、早く買う数量を決めてくれ。」「一巻ということはないでしよう。大の男が三人も来ているんだから、ガソリン代にもならん。」などと申し向けて、こもごも約一時間にわたり執拗に右要求を続け、右要求に応じないときは、際限なく右要求を反復し、あるいはその身体等にいかなる危害を加えかねない気勢を暗に示して右円光寺から安全ロープ三巻(市価合計七・八、〇〇〇円相当)の売買代金名下に金一一万七、〇〇〇円を喝取しようとしたが、右円光寺がこれに応じなかつたため、その目的を遂げなかつた
第二 被告人三家本は、昭和四八年一一月一〇日午後一時ころ、愛媛県新居浜市角野所在の日野清方において、知人の馬越俊浩から、同人が前日の同月九日午後九時一五分ころ、業務として普通乗用自動車を運転して鹿児島県肝属郡高山町富山八八九番地の二先交差点付近路上を進行中、先行車を追越すにあたり、同車の前方の交通に対する安全確認不十分の過失により、進路前方に一時停止していた平野春秋(昭和一〇年四月一日生)運転の軽四輪貨物自動車に追突して、同人に加療約三週間を要する後頭部打撲創等、同車に同乗中の平野ミツ子(昭和一六年五月一五日生)に加療約一〇日間を要する右側顔面打撲挫創等の各傷害を負わせたうえ、右負傷者の救護等必要な措置をとらず、かつ、右事故に関する所定事項を直ちにもよりの警察署の警察官に報告することもなく、その場から逃走した業務上過失傷害及び道路交通法違反事件を引き起したことを聞かされるとともに、右馬越に替つて、その身代り犯人となるよう依頼されるや、これを承諾し、同月一五日前記高山町新富四七〇の一所在鹿児島県警察高山警察署に出頭し、同署において、同勤務の司法警察員尾上良三ほか一名に対し、右事件の犯人は同被告人自身である旨虚偽の供述をし、もつて、犯人である前記馬越俊浩を隠避した
ものである。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
被告人日野及び同三家本の判示第一の三ないし一一、第一の一三、一四の各所為、被告人日野の判示第一の一二の所為はいずれも刑法二四九条一項(但し、第一の一二の所為を除く各所為については同法六〇条をも適用)に、被告人日野の判示第一の一、二の各行為はいずれも同法二四九条二項(但し、第一の一の所為については同法六〇条をも適用)に、同被告人の判示第一の一五の所為は同法六〇条、二五〇条、二四九条一項に、被告人三家本の判示第二の所為は同法一〇三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、該当するので、判示第二の罪につき所定刑中懲役刑を選択するところ、被告人日野の判示第一の各罪及び被告人三家本の判示第一の三ないし一一、第一の一三、一四、第二の各罪はいずれも刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条によりそれぞれ最も重い判示第一の一〇の罪の刑に法定の加重をした各刑期の範囲内で被告人両名を各懲役二年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中被告人日野に対しては八〇日、被告人三家本に対しては九〇日をそれぞれその刑に算入し、被告人三家本に対し同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予し、押収してある約束手形一通(昭和五〇年押第七号の四)は判示第一の一〇の罪の賍物で被害者に還付すべき理由が明らかであるから、刑事訴訟法三四七条一項によりこれを被害者株式会社大気社大阪支店に還付することとし、訴訟費用(国選弁護人松本梅太郎に支給した分)については同法一八一条一項本文により被告人三家本に負担させることとする。
(量刑の事情)
本件は、被告人らのグループが暴力団を仮装して、建設会社や官公庁の出先機関の所長、課長等を畏怖困惑させ、安全ロープ等を押し売りした恐喝事犯であつて、本件だけでも昭和四七年一一月から昭和四九年一〇月にかけ、広島県、熊本県、岐阜県、愛知県下において計一五件、被害総額五一五万一六〇〇円に及ぶばかりか、他に起訴されていない同種押し売り事犯が西日本各地において相当多数あることも窺われ、被害は広範囲で、その額は約一億円という甚大なものである。
被告人らは、これら団体が暴力団等に弱く、いわゆる事なかれ主義的傾向を有していることを利用して、犯行を容易に、かつ、発覚されることなく長期間にわたり、数多く累行して来たものであつて、しかもその犯行に際しては、あからさまに暴力団員の更生資金名下に金品を喝取するという方法を避け、安全ロープ等の販売にかこつけて執務中の事務所に一時間半から二時間も居据わり、脅迫の証拠が残らないよう言葉にも気をつける一方、暴力団関係者であることを匂わせる名刺やつめた小指、入墨を見せる等して被告人らの態度や、その場の雰囲気等により威迫を加え、被害者を畏怖困惑させ、市価の数倍ないし十数倍という法外な値段で購入方を約束させたうえ、その金員を自己らの開設する銀行口座に振込入金させるという巧妙な方法をとり、これによつて被告人らが得た利得は、ロープの仕入れ代等の経費を除き全体として約七〇〇〇万円以上の莫大なものであるが、本件所為以外の分については未だ被害弁償もなされていない。
このような形態の犯行は、前記団体の事なかれ主義的体質と相俟つて組織的暴力団等にも模倣される可能性が強く、社会的にも影響力の大なるものであつて、一般予防の見地からもまた前記犯行の規模、態様、被害の程度等に照らして犯情は悪質で、被告人らの責任は誠に重大であると云わなければならない。
しかも被告人日野は、これまで押売防止条例違反で四回罰金刑に、恐喝未遂、恐喝等で三回懲役刑(うち一回は執行猶予付)に処せられた前歴を有しながら、再び同種の本件犯行を敢行したことは改悛の情なきものと見られてもいたしかたなく、再犯の虞れなしとしないし、同被告人の本件犯行における主動的役割、本件恐喝所為全部に関与し、利得額も最大であること等に鑑み、その責任はグループのうち最も大であるといわざるを得ない。
また、被告人三家本は、日野らの恐喝グループに途中から加わるようになつたが、犯行回数も本件において一一回、被害総額四二四万四六〇〇円に及び、利得額も相当大であるうえ、被告人らのグループがロープ販売のため各地に赴いていた際、自動車運転手の役を勤めていた共犯者馬越俊浩が惹き起こした業務上過失傷害事件の身代りとなつて真犯人を隠避するなど法を軽視する態度が著しく、その犯情は悪質でグループ内においても責任の重い部類に属する。
ところで、本件事犯がかくまで拡大し、被害が増大したのは、前記団体の事なかれ主義が一因となつていて、被害者側にも若干の過失があること、被告人日野は、本件につき逮捕された後は素直に犯行を自供して捜査に協力し、保釈後は食堂を経営しながら真面目に生活を送るなど改悛の情更生の意欲が充分窺えると共に本件所為分については、すでに全額被害弁償を済ませ、昭和四九年度の所得税の確定申告書により今回の儲として四〇〇〇万円を申告のうえ、所得税約一八二七万円を支払う等していること、その他被告人日野は病弱で健康状態が悪く、本件によつて蒙つた家族の心痛等の斟酌すべき事情が種々認められるが、同被告人の前記刑責、犯情に照らすと、やはり実刑処断はやむを得なく、これら諸般の情状を総合考慮して同被告人を懲役二年六月に処し、一日も早く罪の償いを済ませ、まともな社会人として再出発を求めるのを相当と思料した。
次に被告人三家本は、従来行なつていた「スナツク」の経営に失敗し、多額の借金をかかえ込んだため、途中から日野らのグループに加わり犯行を重ねるに至つたものであり、現在は自己の非を悟り深く反省し、保釈後は麻雀店を経営して真面目に生活しているうえ、自らも被害弁償として五〇万円を負担していること、被告人三家本の妻は同被告人が判示第二の事実により逮捕勾留されている間家出して行方不明となり、二人の児童の面倒を見なければならない家庭事情にあること、もとより過去に前科はないこと等の酌むべき事情があるので、今回は同被告人を懲役二年六月に処して刑責を明確にするとともに、四年間その刑の執行を猶予して、社会生活のうちで罪の償と自力更生を期待することとし、よつて、主文のとおり判決する。